兄に電話をかけるたびに、胃が重くなる。
実家の話をしなければならないとわかっているから。でも話すたびに、同じところで止まってしまうから。
「まだ決める必要はないだろ」
兄はいつもそう言う。決める必要はない、まだ早い、そのうち考えよう。三年間、ずっとそれだった。
兄に電話をかけるたびに、胃が重くなる。
実家の話をしなければならないとわかっているから。でも話すたびに、同じところで止まってしまうから。
「まだ決める必要はないだろ」
兄はいつもそう言う。決める必要はない、まだ早い、そのうち考えよう。三年間、ずっとそれだった。
母が亡くなったのは四年前だ。父はその前に他界していた。実家は岡崎市の郊外にある。兄と私の二人が相続した。遺産分割の協議はした。でも実家の土地と建物については「とりあえず共有のまま」という話になって、そのままになっていた。
当時は私もそれでいいと思っていた。すぐに売るつもりはなかったし、急ぐ理由もなかった。
でも今は違う。
私には子どもが二人いて、来年には上の子が大学に入る。教育費がかかる。今の家も手狭になってきた。将来的に住み替えることも考えている。そのためにも、相続した実家をどこかで精算しておきたい、という気持ちが強くなってきた。
兄は長男だ。東京に住んでいて、実家のことはほとんど私が管理している。固定資産税の通知は私のところに来る。草刈りも、近所への挨拶も、私がやっている。
それだけに、「売る必要ない」と言われると、少し頭にくる。
管理をしていないくせに、決めるときだけ「まだ早い」と言う。感情的になってはいけないとわかっている。でも、年に一度の話し合いで毎回同じところに戻ってくるのは、消耗する。
兄の気持ちもわからなくはない。長男として実家を手放すことへの罪悪感があるのかもしれない。母が「ここは大事にして」と言い残したのを覚えているのかもしれない。そういう感情を否定したいわけじゃない。
ただ——いつまでもこのままにしておくわけにもいかない、とも思う。
インターネットで調べると、「共有物分割請求」という言葉が出てくる。裁判所に申し立てれば、法律で解決できると書いてある。
でも、兄を裁判所に引っ張り出したいわけじゃない。そんなことをしたら、兄との関係は終わるかもしれない。お金の問題より、そっちの方が怖い。
どうすればいいんだろう、と思いながら、また電話を先延ばしにする。来月かけよう、来月。
先日、偶然、同じような状況にいた知人から話を聞いた。
その人も兄弟で共有名義になっていた実家があって、片方が売りたい、片方が売りたくないという状況だったそうだ。弁護士に入ってもらって、話し合いの場を作り直したら、意外とあっさり解決したと言っていた。「裁判じゃなくても、間に誰かが入るだけで変わることがある」と。
そうか、と思った。
私と兄の話し合いが毎回同じところで止まるのは、話し合いのやり方に問題があるのかもしれない。感情的になりやすい関係同士が直接話すから、お互いに身構えてしまうのかもしれない。
まだ具体的には動いていない。
でも、「兄が反対しているから無理だ」と諦めていたのとは、少し違う見え方になってきた気がする。「どう動くか」ではなく、「なぜ止まっているか」をもう少し丁寧に見てみようと思っている。
兄を説得したいわけじゃない。ただ、この問題を二人でちゃんと向き合える状況を、何とか作れないかと、今は考えている。
この記事は、過去にご相談いただいたお客様の実体験をもとに、物語調に編集したものです。同じような気持ちを抱えている方に、「悩んでいるのは自分だけじゃない」と感じていただけたら、それだけで書いた甲斐があります。
合意の先にある売却の全手順を、豊田市で相続した不動産を売却する全手順・岡崎市で相続した不動産を売却する全手順の全手順ガイドに整理しています。