結論からお伝えします。親御さんが老人ホームに入居するタイミングで実家を売却するかどうかは、入居費用の資金繰り・親御さんの気持ち・税制メリットの三つの視点から判断する必要があります。「すぐ売らなければいけない」わけでも「売ってはいけない」わけでもありません。ただし、売るなら親御さんの判断能力がしっかりしている今のうちに動くことが、家族にとって最も負担の少ない選択になるケースが多いです。

老人ホーム入居時に実家を売る三つの理由

豊田市・岡崎市でも、親御さんの施設入居を機に実家売却を検討するご相談が増えています。実際に売却を選ばれる方の理由は、おおむね次の三つに集約されます。

一つ目は、施設入居費用の捻出です。介護付有料老人ホームの入居一時金は地域によっては数百万円から一千万円を超えることがあり、さらに月々の利用料が20万円前後かかります。年金と貯蓄だけでは不足するご家庭は珍しくなく、実家の売却代金を当てるケースが多く見られます。

二つ目は、空き家維持の負担回避です。誰も住まなくなった家でも、固定資産税・火災保険料・庭木の手入れ・建物の劣化対策・水道の通水管理などで年間20〜30万円の維持費がかかります。10年放置すれば200万円以上の持ち出しになり、その間にも建物価値は下がり続けます。加えて、2015年に施行された空家等対策特別措置法により、管理不全の空き家は「特定空家」に指定され、固定資産税の優遇が外れて税額が最大6倍になるリスクもあります。

三つ目は、相続時のトラブル回避です。相続後に売却しようとすると、遺産分割協議で兄弟姉妹の意見が割れることがあります。親御さんが判断できるうちに売却して現金化しておけば、分け方もシンプルになり、争いが起きにくくなります。

「すぐ売らない」選択もある

ただし、すべてのケースで即売却が正解とは限りません。施設入居後、親御さんが「やっぱり家に戻りたい」と希望されることもあります。認知症の進行で一時的に入居されたものの、状態が安定して在宅介護に切り替える例もあります。

また、親御さんにとって実家は単なる建物ではなく、人生そのものの記憶が詰まった場所です。入居直後に売却を急ぐと、親御さん自身の心理的なダメージにつながることがあります。入居して3〜6か月ほど様子を見てから判断する、という進め方も十分にあり得ます。

居住用3,000万円控除の「空き家期間」の落とし穴

親御さんが自宅として住んでいた家には「居住用財産の3,000万円特別控除」が使えます。譲渡益から3,000万円を差し引けるため、多くのケースで譲渡所得税が大幅に軽減されます。

ただし、この控除には「住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末まで」という期限があります。つまり、親御さんが施設入居して実家が空き家になってから約3年以内に売却しないと、この控除が使えなくなってしまいます。

老人ホーム入居後、様子見をしすぎて3年を超えてしまうと、売却時に数百万円単位で税負担が増える可能性があります。売るかどうか迷うにしても、この期限は必ず意識しておくべきです。

具体的な例で説明します。たとえば親御さんが2026年4月に施設入居した場合、3,000万円控除を使えるのは2029年12月末までの売却です。不動産売却は買い手が見つかるまでに3〜6か月かかることが一般的ですから、2029年の夏頃までには売却活動を開始しておく必要があります。逆に言えば、入居からの最初の1〜2年は親御さんの気持ちを尊重しつつ様子を見る猶予があるということです。

親御さんの判断能力と売却の関係

見落としがちなポイントがもう一つあります。親御さんの判断能力です。不動産売却の契約には売主本人の意思確認が必要であり、認知症が進行して意思能力がないと判断された場合、成年後見制度を使わない限り売却手続きは一切進められません。

成年後見制度の申立てから選任まで通常2〜3か月かかり、後見人には月額2〜6万円の報酬が発生します。さらに、家庭裁判所が売却の必要性を認めなければ許可が下りないこともあります。「売りたいときに売れない」という状況を避けるためにも、判断能力がしっかりしている段階で方針を決めておくことが重要です。

豊田市・岡崎市での実務的な進め方

まず、施設入居費用と月々の支出を試算し、実家売却が資金計画上どの程度重要かを把握します。次に、実家の現在価値を知るために査定を受けます。そのうえで、親御さんご本人の気持ちを確認し、家族で売却時期を話し合います。

豊田市・岡崎市では、築年数が古くても立地のよい戸建ては一定の需要があります。特に豊田市の場合、トヨタ自動車関連の転勤需要があるため、駅徒歩圏内や区画整理地内の物件は比較的動きやすい傾向があります。岡崎市でも、東岡崎駅周辺や国道1号沿いのエリアは底堅い需要があります。

更地にしてから売るか、現況のまま売るかの判断も、価格に大きく影響します。建物が古くても「リフォームして住みたい」という買い手がつくケースもありますし、解体費用(木造で坪3〜5万円が目安)を売主が負担する必要がなくなるメリットもあります。地元の相場感を持った担当者と相談することをお勧めします。

私は豊田市・岡崎市の両エリアを一人でカバーする不動産エージェントとして、施設入居と売却のタイミングをご家族と一緒に考えるご相談を数多くお受けしています。売却そのものよりも、まず「いつ動くか」の見立てから一緒に整理していきます。