「まだ考え中なんです」と言って、私は何度電話を切っただろう。

岡崎市の実家を相続して、もう3年になる。

父が亡くなり、誰も住まなくなった家をどうするか、ずっと決められないでいた。売るとは言えなかった。かといって、このままでいいとも思っていなかった。


不動産会社からときどき電話がかかってきた。「その後いかがですか」と。

同僚から「そんな電話、放っておけばいいじゃないか」と言われた。でも私は切らなかった。

「暇だから」と笑いながら答えていた。半分は本当だった。でも半分は嘘だった。

家の話を聞いてもらえる人が、周りにあまりいなかった。家族に言えば心配させる。友人に言えば気を遣わせる。

だから電話口の相手に、少しずつ話した。父がこの家をどんな思いで建てたか。縁側でよく日向ぼっこをしていたこと。庭の柿の木の話。


先日、屋根が傷んでいることがわかった。業者に見てもらうと、修繕が必要だという。

直すべきかどうか迷った。売る気がないなら直さなくていい。でも放っておくのも気になった。

結局、修繕した。


なぜそうしたのか、自分でも少し考えた。

父が建てた家を、ちゃんとしておきたかったのだと思う。売るかどうかとは別の話として。

3年間「考え中」と言い続けながら、本当は何を考えていたんだろう。

売るかどうかじゃなかったのかもしれない。父のことを誰かに話したかっただけだったのかもしれない。そんなふうに思い始めている。