結論からお伝えします。親御さんが元気で判断能力がしっかりしているうちに売却を進める「生前売却」は、相続後に売るよりも意思決定がスムーズで、税負担の選択肢も広く、家族間の争いも起きにくい、という実務的メリットがあります。ただし、親御さんの住まい・気持ち・介護計画・税制を同時に考える必要があり、「いつ売るか」の見極めが最も難しいテーマでもあります。
なぜ生前売却が注目されているのか
豊田市・岡崎市でも、近年「親がまだ元気なうちに家のことを整理したい」というご相談が増えています。背景には三つの事情があります。
一つ目は、2024年4月から相続登記が義務化され、相続後の手続き負担が社会的に意識されるようになったことです。相続してから売却するまでには、遺産分割協議、相続登記、売却活動、譲渡所得の確定申告と、最低でも半年以上のプロセスが必要です。生前に親御さん名義のまま売却すれば、このプロセスの大半を省略できます。
二つ目は、老人ホームや介護施設への入居資金を、実家の売却代金で賄いたいというニーズです。豊田市・岡崎市周辺の有料老人ホームでは、入居一時金が数百万円から一千万円規模になるケースもあり、年金だけでは不足することがあります。
三つ目は、認知症になってからでは売却できないという現実です。判断能力が低下すると、成年後見制度を使わない限り不動産の売却はできません。成年後見制度は家庭裁判所の関与が必要で、後見人への報酬(月額2〜6万円が目安)も発生し、売却価格や時期の自由度が大きく制限されます。さらに、後見人が選任されるまで通常2〜3ヶ月かかるため、その間は一切の売却手続きが進められません。
厚生労働省の推計では、65歳以上の約5人に1人が認知症またはその予備群とされています。「うちの親はまだ大丈夫」と思っている間に判断能力が低下するケースは決して珍しくありません。
生前売却で使える税制の選択肢
親御さんが居住していた家を生前に売却する場合、「居住用財産の3,000万円特別控除」が使えます。所有期間や居住期間の要件を満たせば、譲渡益から3,000万円を差し引けるため、多くのケースで譲渡所得税がゼロになります。
一方、親御さんが亡くなった後に相続人が売却する場合、「相続空き家の3,000万円特別控除」という別の制度があります。こちらは昭和56年5月以前の建物であること、相続開始から3年以内の売却であること、耐震リフォームまたは取り壊しを行うことなど、条件がかなり厳しく設定されています。
つまり、親御さんが元気で自宅に住んでいる状態で売却すれば「居住用の3,000万円控除」という汎用性の高い制度が使え、亡くなった後では「相続空き家の3,000万円控除」という条件の厳しい制度を使うしかない、という違いがあります。生前売却のほうが税制上の選択肢が広い、ということです。
生前売却を選ぶべきケース・選ばないほうがいいケース
生前売却が向いているのは、親御さんが老人ホームへの入居を決めていて現金が必要なケース、兄弟姉妹がいて相続後の揉め事を避けたいケース、親御さん自身が家のことで子どもに負担をかけたくないと考えているケースです。
一方、生前売却を急がないほうがいいのは、親御さんがその家に強い愛着を持ち、最期までそこで暮らしたいと望んでいるケースです。住まいは金銭価値だけで測れるものではありません。親御さんの気持ちを置き去りにした売却は、後々家族関係に傷を残すことがあります。
また、親御さんがまだ現役で働いており、自宅で生活する予定が当分変わらない場合も、急いで売る理由はありません。ただしその場合でも、「いつ・どの条件で売却を検討するか」の基準だけは家族で共有しておくことをお勧めします。たとえば「施設に入居するとき」「要介護3になったとき」など、具体的なトリガーを決めておくと、いざという時に慌てずに済みます。
生前売却の注意点
生前売却にはメリットが多い一方で、見落としがちな注意点もあります。
一つは「売却後の住まいの確保」です。親御さんが自宅を売却するのであれば、新しい住まい——老人ホーム、子ども世帯との同居、賃貸住宅など——を先に決めてから動く必要があります。住まいの確保が後手に回ると、売却を急がされる形になり、結果的に安値で手放すことにもなりかねません。
もう一つは「贈与税の問題」です。売却代金を子どもの口座に移す場合、贈与税の対象になる可能性があります。親御さんの口座で管理し、介護費用として使う分には問題ありませんが、名義の移動には注意が必要です。税理士に確認しておくことをお勧めします。
豊田市・岡崎市での進め方
実務的には、まず親御さんと子ども世代が「いつ、どのタイミングで売るか」を話し合うところから始まります。次に、現状の不動産価値を把握したうえで、介護や住み替えの計画と照らし合わせ、売却時期を決めていきます。
豊田市・岡崎市では、築年数が30年を超える戸建てが多く、更地にするか現況のまま売るかの判断も重要です。解体費用は木造で坪3〜5万円が目安で、30坪の建物であれば90〜150万円前後。この費用を親御さんが負担するのか、売却代金から差し引くのかも、事前に話し合っておくべきポイントです。
また、地域によっては駅距離・区画整理の有無で価格帯が大きく変わるため、地元の実勢相場を知っている担当者と相談することをお勧めします。
私は豊田市・岡崎市の両エリアを一人でカバーする不動産エージェントとして、生前売却のご相談を数多くお受けしてきました。急かすことなく、親御さんのお気持ちとご家族の事情を丁寧に伺いながら、最適なタイミングを一緒に考えるのが私の仕事です。
