「売らないと将来が不安で」と、私は何度も言った。

豊田市郊外の実家を相続して、4年が経つ。父が亡くなり、母は施設に入った。家には誰も住んでいない。

固定資産税と草刈りの費用だけが出ていく。不安だと言えば、周りは「そうだね、早めに動いたほうがいいね」と言う。それは本当のことだった。

でも、動けなかった。


実家は姉と二人で半分ずつ相続した。姉は売ることに反対だった。「お母さんが帰ってくるかもしれないから」と言う。

医師から自宅に戻る見込みはないと言われていた。でも姉の言葉を否定できなかった。


父が生きていた頃は、こういうことは全部父が決めていた。私と姉が直接ぶつかることはほとんどなかった。

父という緩衝材がいなくなって初めて、姉との関係が試されているのだと気づいた。


将来の経済的な不安は本当だった。

でも本当に怖かったのは、姉と正面からぶつかることだった。

説得しようとして失敗したら、今後ずっと関係がこじれるかもしれない。そう思うと、動けなかった。


ある夜、姉に手紙を書いた。「お母さんの家のことで、怒らないで聞いてほしい。ただ二人で話したいんだ」と。

返事はまだ来ていない。でも手紙を書いた夜、久しぶりに深く眠れた気がした。